0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『ブライアン・ウィルソン ソングライター ~ザ・ビーチ・ボーイズの光と影~』




トム・オーディル『ブライアン・ウィルソン ソングライター ~ザ・ビーチ・ボーイズの光と影~』、

ポピュラー音楽の歴史的な大物バンド、ザ・ビーチ・ボーイズの中心的存在ブライアン・ウィルソンの、1962年から1969年までの栄光と苦悩を追ったドキュメンタリー映画シリーズのパート1。

「サーフィン・サファリ」や「サーフィン・U.S.A.」、「サーファー・ガール」や「ファン・ファン・ファン」、「ドント・ウォーリー・ベイビー」や「グッド・ヴァイブレーション」他などなど、数々の名曲を生み出してきた、コンポーザーとしても音楽史に輝くべく存在である孤高の天才と呼ばれるブライアンだが、その人生は波瀾万丈に満ちたものだった。

このパート1は、ブライアン最盛期の活躍をメインに捉えたもので、この後のブライアンドン底時代の話までは出てこないが(パート2で語られている)、それでもブライアンもビーチ・ボーイズも時代と共に変わっていった、または時代に翻弄されて変わっていかざるを得なかった、その変遷が語られている。

『ペット・サウンズ』や問題作『スマイル』などなど、多くの歴史的な名盤を作ってきたが、いつも順風満帆に大スターバンドだったわけではなかったビーチ・ボーイズ。

それは同時に、そのマニュピレーターと言っても過言ではないだろう中心的存在のブライアンとて同じことだったわけで、「サーフィンU.S.A.」や「サーファー・ガール」などのヒット曲を出した後、ライブの活動とソングライターを兼ねる軋轢からライヴ活動をやめていた時期もあったくらいで、やはりブライアンもいつも順風満帆だったわけではない。

またあまりにもマニュピレーターとしての中心的存在だったため、しばしば幾つかのビーチ・ボーイズのアルバムはブライアンのソロアルバムの様相を呈してしまっていたことも語られる。

このドキュメンタリーでは、ブライアン本人のインタビューはなく、ビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストンやデイヴィット・マークス、キャロル・ケイやレッキング・クルーのハル・ブレイン、「スマイル」の著者ドミニク・プライアやブライアン・ウィルソンの伝記の著者ピーター・エイムズ・カーリン、ビーチ・ボーイズの元マネジャーだったフレッド・ヴェイルや、スリー・ドッグ・ナイトのダニー・ハットンらの証言的なインタビューを重ねて、ブライアンの周りにいた人々の証言を元に、ビーチ・ボーイズとブライアンのそうした錯綜と変遷の核心に迫っていこうとしている。

私の好きなフォー・フレッシュメンに、ブライアンは大きな影響を受け、そのJAZZコーラスを研究して、ビーチ・ボーイズのサーフロックサウンドに昇華した逸話。

その次にフィル・スペクターに多大な影響を受けたブライアンが、ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」をいかにうまくビーチ・ボーイズの「ドント・ウォーリー・ベイビー」にリメイクしたかの分析的な逸話。

または、そこからフィル・スペクター御用達のバンド、レッキング・クルーとコラボするに至る経緯。

その後登場したザ・ビートルズが、いかにブライアンやビーチ・ボーイズを翻弄し、変えていったかということまで、そうしたブライアンが影響を受けたアーティストたちの秘蔵映像を交えて、かなり丁寧に語り明かしている。

特に『スマイル』制作に至る時代の話になると、後のドラッグに溺れ、引きこもり状態となるブライアン暗黒時代の影がすでに見え隠れしているのがよくわかる。

つまり時代はベトナム反戦の時代であり、ビートルズの楽曲のように個的な内面に向かう音楽の時代となり、ケネディが大統領になり、カリフォルニアのモダンなライフスタイルが注目され、サーファーガールやサーフライフを歌っていればいい時代ではなくなっていくわけである。

その辺りにおけるブライアンの錯綜、ビーチ・ボーイズ自体の混乱の入り口が、後半語られている。

しかしブライアンの凄さとは、影響を受けたアーティストから吸収したものをベースに、謂わば音楽的発明をし続けたことにあると思うのだが、その辺りのことも、周りにいた人々の証言を通してちゃんと捉えられている。

ブライアンのインタビューを入れず、絶えず周りにいた人々の証言で外堀を埋めていくスタイルだから、確かにブライアンの真の心中は明確ではなく、真相は藪の中という感じが少ししなくもない。

しかし、あくまでビーチ・ボーイズやブライアンをリスナーの側から検証するならば、寧ろこの外堀埋めスタイルの語り故に客観的な音楽史を語り得ていると思うし、それぞれの時代とブライアンの関係を俯瞰させるものにも成り得ていると思う。

3時間とちょっと長いが、そんな中々に濃い内容が語られた佳作ドキュメンタリーな一篇。 2017/08/08(火) 00:06:58 外国映画 トラックバック:0 コメント(-)

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