0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『調教の館』

永岡久明『調教の館』再見、

やり手で鳴らした元会社社長の早川雄三は妻を亡くし、古風な館で一人暮らしていたが、ある時、椎名早苗夫婦が館を見に来て、そのまま同居することになる。

だが椎名が死んだ妻そっくりだったことに早川は驚く。

最初は仲良く暮らす早川と椎名夫婦だったが、ある夜、何か叩くような音がしたため、早川が夫婦の部屋を覗くと、そこでは椎名が夫に手首を縛られ、鞭を打たれていた。

驚いた早川は椎名を助けに行くが、それは倒錯的ではあるが夫婦の営みだったため、椎名に早川は邪魔するなと怒鳴られる。

それから早川と夫婦の関係はギクシャクし始めるが、椎名は妙に早川を誘惑してくるようになり、早川もSM自体には難色を示しながらも、妻の生き写しの椎名の誘いに乗る。

そこから徐々に夫婦と早川は倒錯的な関係になっていく。




実質的には早川雄三主演の作品。

早川雄三は映画や刑事ドラマ、時代劇などの悪役も多かったが、日本映画最盛期に大映プログラムピクチャーを支えた名バイプレイヤーであり、日本映画史的にも貴重な名優だった。

だから、一見老いてからこんな小さなVシネSM映画で、老体晒して出演というのは寂しいことに見えるかもしれないが、いやいや、これは老いた早川雄三の堂々たる熱演が光る、見事な主演作であり、どれだけ作品の規模が小さかろうと、役者魂すら感じられる作品になっている。

早川は、かってプログラムピクチャーやドラマなどで何度か演じてきた尊大な会社社長の老いたその後を演じており、そこで死んだ妻そっくりの椎名早苗のSM夫婦に遭遇し、徐々に倒錯的な世界に紛れ込んでいく。

それは、まるで妻の生き写しの椎名に導かれていくようであり、あまりにもノリノリにリアルなドM演技を熱演する遊女的な椎名早苗の熱気に誘われるように、早川は奇妙な世界に入り込む。

しかしそこで、急に早川が変態チックに目覚めたような短絡描写にはならず、早川は最後までどこか倒錯世界を受け入れることに逡巡している描写が秀逸である。

その上早川は、老年の体力の無さから、死とギリギリの背中合わせの状態で、妻の生き写しの椎名と絡んでおり、途中早川が持病の影響から、椎名とハードな絡みをして呼吸困難に陥る場面など、まるで当時70代の老俳優・早川雄三のドキュメントを見ているようで中々緊迫した場面になっている。

この辺り、早川だけでなく椎名早苗の熱演も重なって、少しデヴッド・リンチの「ブルー・ベルベット」を想起させないでもない。

その後早川は、椎名に、尊大な元社長として振舞ってはいるものの、その孤独な老人の生活の寂しさを告白する。

早川が倒錯世界に紛れ込んでも変態に目覚めることもなく逡巡し、そのくせ死とギリギリの状態になるまで椎名の誘惑に応じていたのは、この孤独な老人の寂しさ故だったのだろう。

早川は、ハナから椎名夫婦が良からぬ犯罪を犯して警察から逃亡している夫婦であることは知っているのだが、それでも自身の遺産を椎名に分けると言い出す。

そんなものを望んでいたわけでは全くない、ただの逃亡者の椎名は驚くが、しかし椎名はそこで、早川の孤独な老年の寂しさを理解し一緒に暮らしていくようだ。

警察が椎名夫婦の聞き込みに来ても、早川は夫婦のことを知らせず、館に戻り、二階の椎名夫婦の部屋へ向かってエンドとなる。

設定もこの終わり方も、この手の題材にありがちなパターンではあるが、それでもその中に人間ドラマ的な意味合いがほんのりと感じられる作品になっている。

また、そのような血肉の通ったドラマになったのは、やはり早川のリアルな熱演と、椎名の妖しい好演が功奏した故ではないかと思う。

作品の規模は小さいものの、老いた名優・早川雄三の熱演が生々しく光る、佳作な一篇。 2017/03/28(火) 00:06:03 Vシネマ トラックバック:0 コメント(-)

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