0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『壊れはじめてる、ヘイヘイヘイ』

佐藤快磨『壊れはじめてる、ヘイヘイヘイ』、

サラリーマンの太賀は、仕事帰りのコンビニで、店員の岸井ゆきのにクレームをつけている客を見かけ、訳もわからぬ内にその客に飛び蹴りしてしまう。

岸井は飛び蹴りに感謝し、太賀に付き合ってくれるよう頼む。

カップルになった二人だが、それから太賀は笑顔が少ない岸井のために、店でクレーマーを見かけるたびに飛び蹴りを食らわせては、横でその様子をビデオで撮っている岸井と共に逃げていた。

だが徐々に太賀は飛び蹴りに罪悪感を持つようになり、躊躇し始めるが、岸井はそんな太賀に不満をぶつけるようになる。





文化庁の委託事業・若手映画作家育成プロジェクト=ndjcの作品。

ぴあフィルムフェスティバル出身の佐藤快磨監督作で、クレーマーに飛び蹴りしては逃げるカップルを描いた青春恋愛映画。

設定自体は昔のニューシネマの男女のような感じだが、飛び蹴りカップルってところが変わっている。

飛び蹴りというのは暗喩のようなもので、理不尽な社会生活を送っている太賀の正義感と、社会の生き難さに怒りをぶつける気持ちがない交ぜになったものだろうし、岸井を笑顔にしたいと思い始めてからは、彼女のための飛び蹴りにもなっていく。

しかし同時に飛び蹴りは、理不尽な社会生活の中での太賀の欲求不満のはけ口でもあるのだ。

そのことに気づいた太賀は、それなら同じく社会生活への欲求不満のはけ口でクレーマーをやっている存在と自分が大して変わらないことにも気づいてしまう。

だから飛び蹴りを躊躇し出すのだが、飛び蹴りに正義感と、太賀との接点を見ているのだろう岸井は、飛び蹴りの続行を頼む。

しかしラスト、太賀が、岸井のためにだけ飛び蹴りを続ける、と告げた時、岸井もまた、自分が太賀の飛び蹴りに、自身の理不尽な社会生活の欲求不満のはけ口を求め、恋人を縛っていることに気づき、太賀に別れを告げる。

青春映画と簡単に括る前に、この映画は上記のような心理的変遷や連繋、葛藤が丁寧に描かれた繊細な映画として秀逸である。

青春映画的な青臭い台詞などほぼないが、それでも二人の微妙な心理的変遷や葛藤がちゃんと浮き彫りになっていく。

移動撮影で捉えられた映像には清々しさと生々しさが感じられるし、太賀も岸井ゆきのも役にピッタリで好演している。

短い映画だが、簡潔にまとめながらも、微妙な心理を繊細に描き得ている、わりと秀作な一篇。 2017/02/11(土) 02:28:56 その他 トラックバック:0 コメント(-)

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