0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『首相官邸の女』




若松孝二『首相官邸の女』再見、

駅のプラットホームからの謎の墜落死で、恋人であるジャーナリストの天宮良を失ったOL・青田典子は、野党の衆議院議員中原翔子から、犯人は与党政権の中にいて、天宮はその汚職の実態を掴み記事にしようとして殺されたのだと聞かされる。

復讐に燃える青田は身分を変え、与党の政治家の並樹史朗の秘書となり潜り込む。

身体を使って秘密を聞き出すよう指示された青田は、並樹に肉体関係を結んで取り入り、やがて党の裏金調達の秘密を知らされ、それを管理するのを任される。

さっそくその情報を中原に伝える青田だが、中原の党の上層部がこれをマスコミにリークすることを止めたため、青田の身体を張った潜入は無駄になり、青田は中原に怒るが。





大下英治の原作を映像化した作品。

若松孝二が60〜70年代に撮っていた政治的ピンク映画を、21世紀初頭の政治家の世界の謀略、抗争劇として描いたような作品である。

最初は与党権力者の闇を野党側が復讐のために暴くというありがちな図式だが、お話が展開していく内に野党側の闇や邪悪がどんどん浮き彫りになる。

与党側の汚職の実態も描かれるが、与党議員の政治家としての真っ当な信条の部分も描かれ、中々フェアな視点で描かれた作品になっている。

だから左翼的に偏向している映画では全くなく、権力側の汚職と同時に、野党や左翼側の闇や偽善や邪悪もとことん描いている。

それだけでなく、反体制側の権力者の、実働部隊に対する偽善的な卑劣も、さすがは若松らしくちゃんと捉えている。


終盤にはさらなる混線展開となり、反体制側の実働部隊の誠実な革命意識が、綺麗事を並べながら、その実、権力欲に腐敗しきった反体制政治家の邪悪と偽善を断罪する方向に進み、しかし同時にそれが同士討ちの壊滅作戦でもあったことが描かれる。

逆に、権力側の腐敗も断罪され、与野党両方の膿を出す展開となる。

しかしラストはそれだけでは終わらず、政治的な腐敗と邪悪を巧妙な戦略で断罪した者たちすら、そこから新たな利権と腐敗に向かって進んでいくのであろう予兆を見せて終わっていく。

原作や脚本もいいのだろうが、一筋縄ではいかない政治の世界の錯綜を、中庸な視点で中々うまく描き得ている作品である。


初代C.C.ガールズ脱退後の青田典子は、復讐者としての女秘書役を気丈に好演しておりかなり適役である。

その他若松作品らしく、川上泳や港雄一がチラリと出ていたりするし、栗本慎一郎や上田哲などの実際の政治関係者が出演している。

今また久々に再見しても、有りがちな反体制映画の短絡と偽善と綺麗事を断罪するようなフェアな視点で描かれていることがよくわかる、展開に醍醐味のある佳作な一篇。

2017/02/07(火) 00:06:24 Vシネマ トラックバック:0 コメント(-)

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