0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「痴漢白書9」

安藤尋「痴漢白書9」再見、

小沢小梅は、不満のない夫婦生活を送りながら翻訳事務所で働いていた。

だが小沢は徐々に夫婦間に溝があるように感じ始めていた。

ある日、通勤電車で小沢は痴漢に遭い疼いてしまう。

相手の男は不動産会社に勤めるサラリーマンだったが、男は家庭に居場所がなく悩んでいた。

再び男に遭った小沢は、尾行して、男が不動産会社に勤めるサラリーマンであることを突き止め、男に客を装って接近する。





「痴漢白書」シリーズの一作。

レベルの高い作品が多いこのシリーズだが、この作品も、まるで日活ロマンポルノの名作映画のような秀作である。

ロマンポルノ無き時代の90年代にはピンク四天王監督がピンク映画で秀作を連発したが、ピンクパイナップルも、このシリーズ他から有能な映画作家を輩出していた。

この作品は安藤尋の初期作だが、演出も描き方も丁寧で出色の出来である。

丸山正樹の脚本も良い。

荒れた空き地越しに映し出される無機質なマンション群の物々しくも哀愁に満ちたショットなどの、映画全体のショットセンスも見事である。

また、電車の痴漢を通して出会った小沢と男の接近の描写にも味があり、あくまで客と業者の関係をお互いが装いながら、徐々に関係を結んでいくプロセスの描写には独特の緊張感があり秀逸である。

その上で、小沢と男の結婚生活の渇きと、生な自分を探し続けて絡み合っていく心理的葛藤が、ドラマ自体の葛藤的展開と一体化しているので、小沢や男の心理を追いながらドラマの根幹の哀愁と抒情を感じることが出来るし、逆にドラマの情緒を追ううちに、小沢や男の心理的葛藤のドラマを理解することが出来る作品になっている。

小沢小梅が役どころによく合っている上に、繊細な心理的葛藤を静かに、しかし如実に表現する好演を見せている。

実に日活ロマンポルノの名作のような、中々の秀作な一篇。

2017/01/03(火) 01:49:59 Vシネマ トラックバック:0 コメント(-)

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