0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「嘆きの天使 〜ナースの泪〜」




城定秀夫「嘆きの天使 〜ナースの泪〜」、

神咲詩織は看護師をしていたが、患者からのセクハラに遭ったり、先輩ナースの広瀬奈々美が患者とセックスする姿を見たりしながらも、 マジメに看護師をやっていた。

だが実は神咲は同じ病院の医師・千葉誠樹と不倫関係にあり、そのことを周りに秘密にしていた。

結婚出来るわけではないことがわかっていながら、神咲は千葉との体だけの関係を続けるが、ある日神咲は遅刻したため、急いで出勤している途中に、すれ違った大学生が交通事故に遭い、大怪我した大学生を救急車で自分が働く病院に搬送する。

その後、神咲は大学生の担当看護師として初めてのリハビリを受け持つが、神咲の献身的な介護から回復に向かう大学生は、神咲に恋愛感情を持つようになる。



城定秀夫の看護師を描いた映画。

病院を舞台にした軽いラブコメ映画のように前半は描かれるが、主役の神咲の生活や心情に焦点が合い始めると、徐々に一人の女の生き様を描いた映画になっていく。

それはまるで、にっかつと言うより、日活ロマンポルノの時代の秀作に匹敵するような女の映画に近く、最初はたどたどしいアイドル芝居のようだった神咲詩織が、徐々に生々しくも痛々しい苦しみを抱えた一人の女にどんどん見えてくるところがとても秀逸である。

この辺り、さすがは城定秀夫と言うべきだろう。

特に千葉誠樹に無理を言わず、あくまで割り切った不倫関係でいようと強がってきた神咲が、千葉のちょっとした心ない一言から、いきなり完全崩壊するように号泣する場面の、その超のつくリアリティ描写は素晴らしすぎる。

こういう見事な演出や描写、演技を見ていると、つい成瀬巳喜男映画すら想起してしまうが、しかしどちらかと言うと、この場面のリアリティー描写は、橋口亮輔のあの見事な描写力の方をより強く彷彿とさせるところがある。

後半の、自分に憧れている大学生に不倫関係がバレてからの神咲の淡々とした”女の生々しさ”の露出描写も出色である。

それでいて、深刻ぶったテイストの映画にはせず、絶えずコミカルな軽い描写も随所に入れて、見やすい作品にしているところにも好感が持てる。

だが実はこの映画は、単に女の生々しい 生き様を描いた映画というだけではないと思う。

映画冒頭からずっと「われは心より医者を助け、我が手に託されたる人々の幸のために身を捧げん」という「ナイチンゲール誓詞」からの引用の言葉が神咲の声で発せられるのだが、つまり神咲は、このナイチンゲールの奉仕と献身の精神で看護師の仕事をしているのみならず、医師の千葉との不倫関係にすら、このナイチンゲールの奉仕と献身の精神で臨んでいるのだと思う。

だから神咲の、怪我をした大学生のリハビリへの献身的介護だけでなく、自分に恋愛感情を持つ大学生を性的に受け入れる行動にも、ナイチンゲールの精神がその核には内在するのだろう。

この映画の神咲が、何故あんなに堂々たる生々しき女に成り変わり、女の生き様を見せつけるのか?

それは神咲のあらゆる行動に「われは心より医者を助け、我が手に託されたる人々の幸のために身を捧げん」というナイチンゲールの生き様と精神が貫徹しているからだろう。

一人の看護師がナイチンゲールになろうとして、生々しい一人の女になっていく映画…この映画はそんな前代未聞な領域に到達した、見事な佳作である一篇。






2016/12/17(土) 02:40:05 Vシネマ トラックバック:0 コメント(-)

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