0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「gift」




宮岡太郎「gift」再見、

遠藤憲一は、輸入食品会社を一代で築き上げた会社の会長だった。

しかしある日、側近の秘書や家政婦に怒り出しクビにしてしまう。

一方、DVが酷い、子供を愛さない母親に育てられた松井玲奈は、母の死後、ホストにだまされ借金を抱えてキャバクラ嬢として生きており、いつも借金取りに付きまとわれていた。

ある日遠藤は、公園で松井が老婆の金をスる現場を目撃し、自分も被害者のようにベンチに佇み、また松井が盗みにやって来た現場を押さえて捕まえるが、遠藤は松井に、100時間で100万円のアルバイトをしなければ警察へ突き出すと言い、渋々松井は遠藤が東京まで行く車の運転手兼使用人の仕事をすることになる。

どちらも孤独でクセの強い訳ありな二人だったが、遠藤の娘に贈り物を届ける東京への旅の途中、色々なことが起こる。





宮岡太郎監督の映画デビュー作。

地域発信映画をコンセプトにしたMシネマプロジェクトの第1弾作品で、元々は愛知県限定公開の映画だが、しかしSKE48の松井玲奈主演のご当地アイドル映画などというレベルを遥かに超えた傑作である。

確かに松井玲奈は借金塗れで泥棒までやるビッチなキャバ嬢役だから、ファンには複雑な役どころかもしれないが、しかし全く客観的に一人の女優として見て、見事な好演を見せているし、名優・遠藤憲一の名演と堂々渡り合うだけの演技力を見せており、素直に素晴らしいと思う。

まあ松井は「マジすか学園」のゲキカラというヤンキー役も怪演していたから、いきなり汚れ役をやったという印象はこちらにはないのだが、しかしそれでも非常に厳しい現実を生きているキャバ嬢役を見事に熱演している。

中村由香里の脚本が、どこか70年代の倉本聰や山田太一脚本の名作ドラマを思わせるような秀逸な人間ドラマになっていることが、たぶんこの映画の一番の強みだろう。

東京までの道中、徐々にお互いの辛い事情から心を通わせていく松井と遠藤のドラマは、捻りと伏線の効いた展開の中、痛々しくも哀しく、その上で温かいぬくもりが感じられるもので、なんとも名作映画独特の風格すら感じられる。

確かに終盤には、かなり異色のクライマックスを迎えるが、そこまでの描写に綺麗事がなく、遠藤の東京までの思い出旅行的な部分すら、あくまでシニカルな現実性を露見させたものとして描かれているので、かなり血生臭いクライマックスとなったことにも必然性が感じられる。

また最後の省略的な松井の顛末的な描写も巧く、全てを説明的に描かずとも、人物の気持ちが如実に理解出来る描写となっており、ラストシーンにも意味深な感慨深さがある。

このラストシーンの意味深な感慨深さは、この映画自体の意味深な感慨深さ自体すら体現しているようで、締めとしてはかなりのものだろう。

小さな映画ではあるが、今時、まだまだこういう昔ながらの素晴らしき脚本がちゃんと映画として成立し、それをきっちり演出する監督がいて、ちゃんと演じ切れてしまう役者がいるんだな、ということの嬉しさを感じさせてくれる、見事な傑作の一篇。


2016/12/06(火) 00:58:55 その他 トラックバック:0 コメント(-)

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