0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「夢の女 ユメノヒト」

坂本礼「夢の女 ユメノヒト」、

佐野和宏は心の病から10代〜50代まで精神病院で入院していたが、東日本大震災の避難中に病が完治しており、40年ぶりに外に出て生活するようになる。

佐野は10代の時の初体験の相手女性に会いたい希望があり、震災後、息子夫婦のいる東京に引っ越した夢の女に会うために、福島から東京へと自転車で向かおうとするが、その途中に色んな女性に出会う。




現在では言葉が話せなくなった佐野和宏主演の老年青春恋愛映画。

多くの秀作映画を監督したり、名演を見せてきた佐野の現状を思うといささか辛いが、しかしこの映画では台詞無しでもイノセントなまでの表情の名演で見事主役を張っていて秀逸である。

たまに映画に出ているが、今は居酒屋店主となった、かってはピンク映画で鳴らした工藤翔子がほんの脇役で出ていたりする。

特にカラオケのシーンで、故・大瀧詠一の「君は天然色」を佐野が声が出ない中歌うシーンは、そのカラオケ映像の中の主役が亡くなったピンク映画のスター男優、伊藤猛であり、佐野を後ろで見守る<夢の女>が、同じくかってピンク映画で名演を見せていた老いた伊藤清美であり、曲のサビのところで佐野の声が少しだけ聴こえ響くと、そこに伊藤清美がたまらず寄り添うところなどは、感慨深すぎてさすがに泣かせる。

坂本礼の映画的な映像センスが全編に光り、映画の運動感が佐野が自転車を走らせるシーンには特に漲っていて、中々の映画的魅惑を湛えた作品になっているが、やや単調な描写の連続に見えるところもあり、もうちょっとメリハリがあってもいい気もする。

しかし後半、佐野が会いたがっていた夢の女=伊藤清美と再会してからの描写には独特の良き味わいがあり、さっぱりした印象だが随所に哀愁を感じさせる伊藤清美と、イノセントな老人のたそがれた哀愁を感じさせる佐野和宏両者の見事な好演がこれまた感慨深かったりする。

描写が単調すぎたりして途中弛緩してダレるところはあるが、それでも確かな映画的魅惑と、往年のピンク映画の名優の哀愁溢れる好演に満ちている一篇。
2016/05/07(土) 00:05:24 その他 トラックバック:0 コメント(-)

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