0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「リアル~完全なる首長竜の日~」

リアル~完全なる首長竜の日~ リアル~完全なる首長竜の日~



 

 黒沢清「リアル~完全なる首長竜の日~」、

佐藤健は、恋人で漫画を描いているらしいが自殺未遂事件を起こして昏睡状態にあると言われる綾瀬はるかの頭の中の意識にセンシングという方法を通して入っていく。

そこは綾瀬の意識の中らしかったが、佐藤はそこで漫画に出てくるゾンビを見たり、綾瀬に完璧な首長竜が見たいと言われたりする。

何度もセンシングを行う佐藤はそこで綾瀬との子供時代の過去の世界にまで入りこんでいく。






乾緑郎の原作を黒沢清が映画化した、ファンタジックでホラーなミステリ映画。

芦澤明子のカメラワークが素晴らしく、映画全体がモロに最初のワンカットからして黒沢清映画そのものになっているところがまずいい。

映画自体、まるでかっての黒沢作品である「CURE」や「回路」、「LOFT」などが合体したようなテイストに満ち溢れていて、この題材に黒沢清はピッタリだなと随所に思わせるところがある。

それだけでなく、相変わらず映画原理の根源を剥き出しにしたような描写もあり、現実と意識の中の世界の映像の混在によって、映画に映される現実=イマージュと意識の中の世界=イマージュがどちらも並置的に描かれ、それによってどちらも映画というイマージュでしかないことが妙に際立つところがある。

結局この意識の中の世界に関しては、後半に倒錯的な真相が明かされ、観客がそれまで見ていた世界のイマージュ自体が意味的に反転してしまうわけだが、まあこの後半のどんでん返しはミステリではありがちなものだと思うものの、映画というイマージュを見せつけて描く世界でそれをやられると随分意味深な気もする。(つまり我々観客が映画を見て認識していた映像世界の意味が途中で変わってしまうわけだから)

しかし残念なのは、実際にはそのように意味深な倒錯があるのに、妙にありがちなオチみたいにあっさり描かれすぎてしまっている点だろうか。

つまりこの映画がかっての黒沢の怪作「回路」や「LOFT」「叫」などと比べて物足りないのは、この妙にあっさりエンターテイメント映画と容易く手を結んでしまったような部分であり、それが後半のまとまりすぎた終わり方に顕著に出てしまっている。

まあ原作のある映画なので健闘はしているものの、いつもの黒沢清らしいムチャはこういうメジャー作でそうそう出来なかったのかもしれぬが、しかしながらこういう映画を見ていると、ミステリの世界では異色な方のこの映画の原作も、黒沢清の才気の前では、いかにも普通でありがちなジャンルてんこ盛り小説でしかないなということがわかってしまうところがある。

と同時にこれまでの黒沢清の映画がいかに天才的なオリジナルストーリーを天才が撮った映画だったかということも顕著になるところがある。

この映画は黒沢清が撮ることによって、原作は実に映画として濃いものに描かれたと思うし、ミステリアスな前半の飽きさせなさは秀逸ですらあるのだが、なんとなく見終わると黒沢清という天才が多少は異色だけど普通の人が書いた小説を映画化したんだな…という物足りなさも正直感じるのである。

ラストシーンのかなり白っぽい画面がカールTドライヤーの「奇跡」みたいだったり、走行する車の車内の描写がかってのハリウッド50年代の懐かしいスクリーンプロセス風だったり、水に浸かった意識の中の室内の、水面の揺らぎの反映である揺らめく光と、そこに顕れる影がジャック・ターナーの「キャット・ピープル」のプールのシーンのようだったりと、黒沢清の古典映画への愛着も随所に出ているのだが、まあ実に健闘している映画ではあるものの、やはり天才、黒沢清が映画化する題材としてはイマイチ普通にまとまりすぎたお話だなと思わせるところも正直ある一篇。


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乾 緑郎

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2013/06/04(火) 13:47:56 東宝 トラックバック:0 コメント(-)

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