0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「皇帝のいない八月」

 
皇帝のいない八月 [DVD]皇帝のいない八月 [DVD]
(2006/04/27)
渡瀬恒彦、吉永小百合 他

詳細を見る


 山本薩夫「皇帝のいない八月」再見、

 政局がゆれる198X年、国道で不審なトラックを追跡中のパトカーが銃撃されるが、弾痕は日本の自衛隊すら使っていないものだった。

 三國連太郎の陸上幕僚監部警務部長は緊急の召集をかけられ不穏なものを感じていたが、娘の吉永小百合も夫の自衛官、渡瀬恒彦がいないことに不安を感じていたところ、かっての恋人山本圭に会う。

 吉永はブルートレインに制止を振り切り乗り込むが、そこには多くの自衛官がいて自分たちを「皇帝のいない八月」と名乗っていたが、そこにはリーダー的存在として渡瀬の姿があった。

 ブルートレインはこの、アメリカの犬に成り下がっている政府に不満な自衛官たちのクーデターによりジャックされていた。







 もし現代に自衛官によるクーデターが起きたらという設定の小林久三の原作を映画化したポリティカル・パニックサスペンス映画。

 この映画は封切り時に見ているが、見る前から内容のハードそうな感じや佐藤勝のもはや日本映画史に残る名サントラの素晴らしさからして、さぞかし物凄い映画なんじゃないかと随分期待していたのだが、その期待はものの見事に裏切られ、かなり落胆した覚えがある映画である。(苦笑)

 内容は今だってあるかもしれないと想像できるようなクーデターものだし、そのクーデターを起こす自衛官の主張だって、アメリカの言いなり政府に保守派の自衛官たちが怒りをぶちまけるものだから、寧ろこの頃より今の時代の方が理解されやすいものかもしれない。

 だがサスペンス映画としてはかなりヘタとしか言いようがなく、それなりに重厚な役者陣が出演して政治家を演じていて雰囲気を出しているわりには、クーデターの描写にヤバさもスリルもサスペンスも薄く、山本圭がやたらと弱い左翼人種であることばかりが強調されている感じである。(そう言えばこの山本圭の弱さを証明するために、初期の「映画秘宝」に山本の健康雑誌に載ったリアルな体力測定の表が掲載されたのには大いに笑った。苦笑)

 左翼=インテリだけどひ弱、右翼=単細胞な直情型でワイルドという図式を出しすぎていて、そこで右翼夫と左翼の元恋人の間で吉永小百合がケンカをやめて♪とばかりに竹内まりやの歌でも歌ってるような茶番芝居が延々続くのだが、その田舎芝居じみた演出がお話のスケールのデカさに合ってなくてとても残念である。

 ただ山本薩夫のような短絡左翼ではなく、今の時代にこれをネトウヨを観客層の見込みターゲットにして、逆にクーデターを起こす反アメリカの自衛官の側から描いたらどういう映画になるのかなという興味はある。

 反アメリカのクーデター側にも憲法の9条は守りたい奴、改憲を希望する奴、自衛隊を軍隊にしたい奴、三島由紀夫に憧れてるだけの奴、TPP反対からクーデターに参加する奴、また沖縄のレイプ事件が何度も起こりアメリカ兵を殺そうとする妹をレイプされた沖縄出身の自衛官とか、アメリカ以上に中国や北朝鮮を憎み、途中から北朝鮮攻撃派と反アメリカ派に分かれるとか、なんだか今の時代の方がクーデターの中身をもっと込み入った感じで描けそうな気もする。

 サントラは佐藤勝の名サントラそのまま使って、逆視点からのリメイク作を作り、左翼人種がまたまた山本圭のようにボロクソに半殺しになるシーンを巡って左翼人種の多い映画人とクーデター自衛官を支持する保守派やネトウヨ層との間で賛否両論盛り上がり、一つの映画が日本を巡る世界情勢に関する議論の場になるような問題作に出来る気もする。

 この映画ははっきり言って失敗作だと思うが、やはり捨てがたい題材ではある一篇。

2013/05/28(火) 13:36:44 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://shoheinarumi.blog18.fc2.com/tb.php/1349-7426b6ba