0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「最後のタンゴ」

 熊谷まどか「最後のタンゴ」、

 幸田尚子は三年一緒に暮らした彼氏に出て行かれたらしく苛々していた。

 その彼氏とも友達で、幸田の友人でもある女性は、荒れ果てた部屋の掃除を手伝うが、出て行った彼氏を着信拒否したり言いたいことも言わない幸田の態度を諭す。

 だが幸田が一瞬外で出た際に、たまたま寝具のシートに不審な赤い液体がべっとり付着しているのを発見し、おまけに冷蔵庫を開けるとかなりの異臭がして吐きそうになる。



 

 「桃まつり すき」の中の一作。

 どうやら彼氏に逃げられたらしい幸田の荒廃した気持ちを中心に描いているが、昨日書いた同じ熊谷監督の「世の中はざらざらしている」同様、ワンシチュエーションを描きつつも、そこに十分、明確には描かれずとも背景となる男女の訳ありな事情が感じられ、その上表面上の事実として浮き上がっているものの裏に、微妙に隠されたものがあることを絶妙に匂わせていて、ワンシチュエーション映画の醍醐味がちゃんとある映画になっている。

 この手の映画は、よくワンシチュエーションの目に見えている事象以外の、視覚的には見えていないその背景の事情をうまく匂わせ伝達することが出来ていない映画が多いので、その点、熊谷監督は中々巧いと思う。

 また途中、寝具シートに付着した不気味な赤い液体と冷蔵庫の強烈な異臭という描写から、実は幸田が彼氏を殺害してバラバラにしたのではないか?という疑惑を生じさせるが、そこにサスペンスフルな魅力も出ている。

 まあ最終的にはそれなりのオチとなって終わっていくが、最後をその疑惑に関する、ミステリの絵解きのように見せているところもわりとキッチリしている。

 ワンシチュエーションの失恋ドラマに殺人ミステリ的相貌とサスペンスの亀裂が生じ、その後丁寧な絵解きをして恋愛ドラマを終了させる手際に中々確かなものがあり、やはりちょっと巧い監督の作だと思う。

 ミステリ的サスペンスと恋愛ドラマや追い詰められた人間の情念を同時に描いたミステリ小説は結構世界中で昔から多くあるだけに、今後熊谷監督がその手の原作を映画化して、この映画以上にさらに捻りを加えたらわりと見事なミステリ映画を結実させるかもしれないな、と期待させるところがある。

 そんな巧さを感じさせる佳作な一篇。



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2013/04/03(水) 14:06:32 その他 トラックバック:0 コメント(-)

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