0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「涙を、獅子のたて髪に」

 篠田正浩「涙を、獅子のたて髪に」再見、

 藤木孝は、やくざのような南原宏治の子分で、かって子供の頃死にかけたところを南原に救われたことに恩義を感じて忠実に仕えていた。

 南原らは港湾労働者からピンハネしている山村聡の部下で、山村の女、岸田今日子はかっては南原の女で、今も密かに関係していた。

 その頃労働者らが労働組合を作ろうとすると彼らの中のリーダー的存在を藤木らは事故に見せかけて殺していた。

 その後藤木は加賀まりこと仲良くなっていくが、加賀の父は労働者のリーダーで藤木は南原の命令でこの父を事故に見せかけて殺すが、葬儀で父の死に悲しむ愛する加賀の顔を見て煩悶するようになっていく。




 

 松竹ヌーヴェルヴァーグ系の流れを汲む映画。

 お話の設定は、この当時の松竹ヌーヴェルヴァーグ映画によくある、金持ちと貧乏人、資本家と労働者の図式が明確にあるもので、その合間にいて金持ちの手先になっているチンピラが状況に直面して徐々に自分も弱者でしかないことに気がついていく展開だが、それほどヌーヴェルヴァーグ的な奇妙な映像を多用せずに明確にお話を語っている映画である。

 今見ると南原に騙されているチンピラの藤木がちょっと間抜けすぎるというか純情すぎやしないかとも思うが、藤木が金持ちの側からはどうしようもない蔑視を受けていて、自分がいつも苦しめているはずの負け組の側の人間でしかないことに徐々に気がついていく過程はわりと丁寧に描いている。

 最後まで暗澹とした感じの映画だが、この時期の寺山修司と組んでいた頃の篠田はやはり作家としての最盛期で脂が乗り切っていて、中々フレキシブルで生々しい映画を実現している。

 あくまで物語をテンポよく語りながら如実に問題を抉っている中々の佳作な一篇。


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池部良、加賀まりこ 他

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2013/02/03(日) 14:35:01 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

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