0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「夏の別れ」

 
夏の別れ [DVD]夏の別れ [DVD]
(2005/08/24)
萬田久子、滝田栄 他

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 井上真介「夏の別れ」再見、

 安藤一夫は母・佐々木すみ江が保険の外交で一家を支える家の学生だったが、悪い仲間と女をレイプしようとしたりと素行が悪かった。

 しかしレイプされそうになった女は前から安藤に目をつけていて、安藤の家にやってきて逆に付きまとうようになる。
 
 実はこの女に興味のない安藤は、ある時撮影スタジオに行くが、そこでモデルの萬田久子に一目惚れし、ファッションショーなどの楽屋に押し掛けたりする。

 だが萬田は男遊びが派手で何股もかけている上に、会社社長・平田昭彦のパトロンにして夫までいた。

 そのことを不意に知り合った元萬田の男らしいルポライター・滝田栄に安藤は知らされるが、その後安藤は萬田に付きまとい、萬田の愛人を脅したり関係を終わらせようとし始める。



 

 中島丈博が自身のプロダクションで製作し、脚本を書いている恋愛映画。

 夏の日の年上の女性と少年の恋愛映画といえば聞こえはいいが、さすがに後にドロドロ昼ドラの帝王になる中島らしく、安藤の少年は恐喝、ストーカー、強盗、不法侵入などをやる悪い奴であり、相手の年上の女、萬田久子も遊び好きで乱れきったパトロンもいるビッチ女で、それが実にドロドロというか暴力的に絡み合う映画になっている。

 だが安藤は女にはまだ妙に青く、そこが唯一この映画を青春映画っぽくしているところだろうか。

 しかし出色なのは当時新人監督、井上真介の映画監督としての感性で、ほとんどヌーヴェルヴァーグ映画のような繊細な映画的センスでこのお話を切り取り映像化しており、屋内シーンのワンシーンワンカットも、萬田が颯爽と歩くシーンを長回しで捉えたシーンから、安藤が萬田の部屋に侵入しようと建物をよじ登っていくシーンなどなど確実に映画としての稀有なきらめきに溢れていて、今、井上真介が日本映画の大監督になっていないことがこうして見直すとやはり疑問に思えてくるほどである。

 今もバイプレヤーとして活躍する安藤一夫はこれがデビュー作だが、萬田久子もビッチにして実は繊細なモデルの女の役を露出多めで好演している。

 また最後に流れるソフト&メロウなボッサ系の萬田歌う曲も実にいい感じで、かなり決まりまくった映画である。

 まあ日本ではここまでフレンチヌーヴェルヴァーグな小悪党なキャラばかり出てくると共感されにくいだろうから、その点で損をしているのかもしれないが、これが違う時代に松竹ヌーヴェルヴァーグの一作として作られていたらもっと評価が高かったのではないかと思えるところがある。

 確かに安藤のやってることに共感はし難いが、日本映画史に残る秀作だと思う一篇。
2013/01/28(月) 13:17:11 東映 トラックバック:0 コメント(-)

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