0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「恐山の女」

 五所平之助「恐山の女」、

 吉村実子は家が貧乏なため廓に売られ、そこで殿山泰司の金持ちに処女を奪われる。

 その後仕事に慣れた吉村は、ある時出征前の寺田農を客にし、やがてお互い惚れ合うようになる。

 しかし実は寺田は殿山の実子で、寺田が養子に出されていたため姓が違っていただけだった。

 寺田はもう殿山とは会うなと言い残して戦地に行ってしまうが、殿山は吉村を抱きに来て腹上死し、息子の寺田も吉村のことで上官と喧嘩し不名誉な死に方をしたため、吉村には親子を虜にし男を憑き殺す女だという悪い噂が広がる。



 

 タイトルからするとイタコの話かと一瞬思わせるが、異様な偶然に巻き込まれた女のお話。

 処女だったのに廓で仕事に慣れると誰よりもやり手になってしまう吉村の姿が描かれているが、しかしそれゆえでもなかろうが殿山は吉村に狂って腹上死、お互い恋仲になった寺田も吉村のことで不名誉な死を遂げ、吉村はファムファタールのように言われ出す。

 だがその後寺田の兄で、殿山の長男の川崎敬三がやって来て、悪い噂話などに何の根拠もないので、一度自分が吉村にハマったように見せかけてすぐに別れるパフォーマンスをやることで世間のくだらない噂を払拭したいという計画を持ちかけてくるも、結局川崎も吉村に狂い出し、最後は偶然から軍の車に轢かれて死に、吉村の親子三人ハメ殺しのファムファタール伝説は皮肉にもさらに強固なものになってしまう。

 なんとも半分奇天烈話みたいなお話だし、最後も悪い憑きものを落とすということで吉村は東野英治郎の行者に修行だの特訓が必要だのと言われて無茶苦茶なことをさせられた挙句死んでしまい、見方を変えれば出鱈目コントみたいな内容なのだが、しかし五所平之助はこれをホラーじみたサントラを使って大真面目に描いている。

 たぶんそれは、この戦前戦後の時代の、根拠のない噂や迷信や思想が罷り通った軍国主義的時代の馬鹿げた風潮がいかに人間個人にとってはリアルに残酷で無茶苦茶なものだったかを描こうと思っていたからだろう。

 皮肉なことに死んだ吉村の霊を慰めようとして恐山でイタコに頼ったり、ものものしい墓に母・菅井きんが祈るシーンまで迷信はびこる時代の象徴描写のように見えてしまうが、つまり五所はこの出鱈目極まるお話が虚構の笑い話ではなく、そんなことが現実に起こってもおかしくない時代があったことを描き、その愚かさをこそ描いているように思える。

 その意味では異色な立ち位置の映画ではあるが、それを随分明確に見せている一篇。


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2013/01/20(日) 14:31:42 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

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