0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「望みなきに非ず」

 佐伯清「望みなきに非ず」、

 戦後小杉勇は戦争から帰ってきてから仕事がなかった。

 家屋が戦争で焼けなかったので離れを学生に貸していたが、一人の学生は近くに住む小暮実千代の未亡人といい仲になっていくが、その同居人の居候学生が質が悪く、小杉が家を売って、なんとか新たに始めなくてならない仕事の元手にしようとすると、隣の家に行って家が売れないようにしてしまう。

 家を売った金で堀雄二の雑貨店を買って仕事にしようとしていた小杉だったが、しかし堀には後ろ暗い過去があった。

 小杉は家が売れないので田舎暮らしがしたい堀に月賦で金を払って店をやろうとするが、その後居候学生の不注意から火事になり小杉の家が焼けてしまう。



 


 石川達三の原作を映画化した作品。

 戦後、金や生活に困った人たちの苦境を描いた映画だが、小杉自身が困っているのに、その温情から居候させてもらい世話になっているズーズーしい権利ばかり主張する居候学生のごろつきのためにどんどん悲惨な状態になっていってしまう。

 戦後に何とか頑張ろうとしている者が、何でも戦争のせいばかりにして被害者ぶっているが、その実やっていることはゴミやダニのようなごろつき行為でしかない屁理屈な権利ばかり言いたがるクズ連中に迷惑する話だが、それでも小杉は自分たちは家屋が焼け残っただけでもこれまで幸せだったと語り、ゴミのようなクズ居候学生が自分の家を不注意から家を焼いてしまったことにいつまでも怒りもせず、寧ろそのどうしようもない居候学生の戦後の苦しい事情にも広い心で温情を見せてエールを送るほどで、ただひたすら前向きに生きていこうとする。

 結局買い取るはずの店をやっている堀雄二も、今は真面目にやっているが元は強盗の一味だったので、前向きになった小杉はまた暗転するが、それでも堀の真面目な妹と一緒に店をやっていこうとし、まさに「望みなきに非ず」の精神で生きていく姿で映画は終わっていく。

 後に日活活劇映画の監督になる小杉勇が実に好演しており、小暮実千代のよろめき未亡人も結局金のために生きていかなくてはならない厳しい局面に達するが、それでもこの小暮はちょっと男から男を渡り歩いているようなビッチな感じもして、それまで相手をしていた若い学生の方が辛いようにも見える。

 お話がどんどん暗転し、たえず前向きになろうとする小杉に現実の非情(というかクズ野郎の自己チュー行為)が向かってくる展開だが、そのお話の蛇行展開が望みを捨てない小杉の姿をより色濃く描くことに貢献している中々の秀作な一篇。


望みなきに非ず (1949年) (新潮文庫)望みなきに非ず (1949年) (新潮文庫)
(1949)
石川 達三

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高倉健、池部良 他

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  2012/10/31(水) 14:25:53 新東宝 トラックバック:0 コメント(-)
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