0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「二人だけの砦」

 渋谷実「二人だけの砦」、

 アイ・ジョージは岡田茉莉子と恋仲で、ヤクザから足を洗って薬剤師の免許のある岡田と薬局をやってカタギで暮らそうと思うが、岡田の実兄であり、ジョージのヤクザの兄貴分である三国連太郎は最初は二人の仲に反対していた。

 だがジョージがカタギになって妹と暮らすというので許す。

 しかし薬局を始めても客はこず、おまけに住んだ団地の連中が曲者ばかりでだんだんジョージはカタギに嫌気がさしはじめる。


 松竹のブラック喜劇という感じの作品。

 カタギになってからの元ヤクザ、アイ・ジョージはまるで「竜二」の金子正次のように苛々がつのって爆発してしまうが、金子が家族を捨ててヤクザの世界に戻ったのと比べて、このアイ・ジョージはその後も岡田と生まれてくる子供のことを考えて真面目にやろうとするのだが、それでも元いた組から鉄砲玉をやれと命じられたり、猫に生まれたばかりの子供を殺されたりとロクなことはない。

 団地の住民もヤクザ以上に欲に塗れた連中ばかりで、その辺りは中々シニカルな諷刺喜劇的描写になっている。

 笠智衆がジョージの親父役で出てくるが、根はいい人ではあるものの、怒鳴りまくる頑固親父役をやっていて、「モンローのような女」の時の飲んだくれのDV親父役もそうだったが、どうも渋谷実は小津映画の時とは逆キャラの父親を笠智衆に自分の映画で演じさせるところがあり、そうやって小津映画の異化、または差異化を狙っていたのかも知れない。

 子供が殺されて猫を撃ち殺そうと狙うアイ・ジョージと、警察に追われる三国連太郎の篭城、銃撃が後半には描かれ、急にアクション映画展開になるが、キャストもそうだが、どこか東映ヤクザものと松竹ホームドラマが合体したようなところがあり、そこにシニカルさが鈍く輝くように描かれている。

 わりと捻りのある佳作なブラック喜劇の一篇。


顔役 [DVD]顔役 [DVD]
(2009/01/21)
鶴田浩二佐久間良子

詳細を見る
2010/07/31(土) 13:54:38 松竹 トラックバック:0 コメント(-)
次のページ