0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「黒の天使 VOL.1」




石井隆「黒の天使 VOL.1」再見、

ヤクザの抗争が勃発し、幼少期に親を目の前で殺された葉月里緒菜は、若頭の飯島大介の自己犠牲と、黒の天使と言われた女ヒットマン・高島礼子に助けられアメリカに逃げる。

数年後、大きくなった葉月はヒットマンとなり、親の復讐のため日本に帰国。

跡目を継いだ元幹部の根津甚八は、今やヤクザ社会を支配していた。

だが義姉の小野みゆきは根津の愛人となり、リスペクトしていた高島がヤク中になり、根津の情婦になっていることに葉月はショックを受ける。



石井隆の女殺し屋を主人公にしたノワール活劇映画。

冒頭抗争の最中、葉月(の子供時代)を助けてヤクザを殺しまくる高島がかなり決まっているが、高島はその後ヤク中に凋落し、大人になって復讐のため帰国した葉月が幻滅してしまうシーンは二人にとって辛いシーンである。

石井隆的光と影のノワール映像が終始効いている中活劇が展開するので、シンプルな筋のお話だがわりと飽きずに観てられる。

根津甚八、鶴見辰吾、椎名桔平ら石井隆映画の常連がきちんと脇を締め、その中で葉月が暴れまわる展開になっているが、それでも葉月が相棒役の山口祥行とホテルでヒップホップダンスを踊るシーンなどは余計だろう。(苦笑)

結局葉月の本当の父を巡る話などでドラマが深まってはいくものの、まあ映画ではありがちな数奇な運命ってやつが描かれるばかりで大した捻りもないが、ただそれを描く光と影の石井隆的ノワール映像が悪くないので最後までわりと引っ張っている。

葉月里緒菜は悪くはないけど、随所に出てくるガキっぽい芝居が興醒めさせるが、それでも役には合ってる方だろう。

小野みゆきにはもう少しギラついた役をやってほしかったが、その存在感が石井隆ワールド構築に一役買ってはいる。

飯島大介が随分目立ついい役をやっているところなどは、中々ナイスなキャスティングである。

これで完全にいいわけではないし、石井隆ならもっとエグい展開にすべきだろう、もう少し何とかなりそうなものだが…とも思うのだが、それでもシンプルなお話を石井隆ワールドのテイスト全開のノワール映像で描ききったところなどはわりと良い、そう悪くもない一篇。




2015/10/31(土) 04:56:56 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

「梟の城」

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篠田正浩「梟の城」再見、

中井貴一の伊賀忍者は織田信長の伊賀の乱における侵攻の仇を討とうと陰棲していたが信長は死に、生きる希望を失っていた。

しかしある時太閤秀吉暗殺の命を受け動き出すが一人の女と情を通じるも、それは中井を見張るクノイチだった。





篠田正浩による忍者時代劇。

80年代以降は妙に大味だったり綺麗ごとのような映画ばかり撮るようになり、かっての松竹ヌーベルバーグ時代の冴えがなくなってしまった篠田正浩だが、このような政治がらみの忍者時代劇なら昔の勘を取り戻すかと期待して封切り時に見に行ったが、やっぱりダメだったことで落胆した覚えがある映画である。

まあ確かに日本映画としては出来るだけダイナミックに忍者の活劇シーンを撮ろうとしているのはわかるが、なんだか通り一辺の技術に頼ったようなシーンばかりだし、かっての篠田らしい内実への凝りようや問題意識はあんまり出ていない。

それまでの80年代以降の作品や引退作「スパイゾルゲ」よりは多少マシだが、しかし住時の篠田作品の魅力にはほど遠い出来である。

確かに時代は違うがそれにしたってこれは篠田にはうってつけの題材だと思うが、娯楽映画にすることと自身の映画にすることの間で揺れていたのか、どうも中途半端な感じがする映画である。

松竹ヌーベルバーグの作家は大島渚も吉田喜重も苦労しながら老境に至っても自身の作家性を貫徹しているのに、その中では一番易々とメジャー系で映画を撮り続けていた篠田正浩が最も精彩を欠いた映画ばかり連発しており、結局最後まで作品的にはレベルを下げたまま引退してしまった。

大島が大病しながらも監督復帰を夢見、吉田が21世紀になってから「鏡の女たち」のような驚嘆すべき大傑作を撮っているのに、やはり篠田はメジャーに迎合しすぎてどんどん劣化してしまった感がある。

正直80年代に横溝正史原作の駄作映画「悪霊島」の体たらくを見た時にもかなり落胆したが結局篠田はメジャー迎合が祟ってか最後まで最盛期の才気を復活させることなくどんどん劣化して終わった感じである。

この映画は劣化傾向の篠田作品の中ではまだマシな方だが、それでもいい出来とはとても言い難い一篇。

2013/11/15(金) 14:03:49 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

「震える舌」

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 野村芳太郎「震える舌」再見、

 ある時、小さな少女、若命真裕子はちょっとした怪我をする。

 だがその後歩きたくなくなり、怪我を軽く考えていた渡瀬恒彦と十朱幸代の父母が病院へ連れて行くと破傷風にかかっていることがわかる。

 だが病状がどんどん悪化していき、父母も看病疲れになる。





 医療映画風ホラー映画。

 これは昔封切りで最初観に行って驚いた記憶のある映画である。

 映画自体そう傑作とも思わないし、ホラーとしてもそう大したものでもなく、医療映画とホラーの合間なんていう変なスタンスの中途半端感が出まくっているのだが、しかしながらひたすら娘の若命真裕子が不気味なのだ。

 可愛らしい半分素人な感じの小さな女の子がただ病気になってるだけなのに、何かすざまじいものに取り憑かれたなんだか訳のわからない存在になっていくからである。

 当時流行った「エクソシスト」だって悪魔に取り憑かれたリンダ・ブレアという訳のわかるものだったのに、病名のはっきりしている病気が悪化しただけの少女がなんとも形容しがたい不気味な存在になってしまうのである。

 つまりここには悪魔だと幽霊だとかの非現実的絵空事の枠組みはなく、普通にこうやって病気にかかりそれが悪化してしまうことだってあり得る極めて現実的な設定と状況の中で、少女がその無垢な相貌ゆえに何だか訳のわからない存在になっていくのである。

 まあ当時も新感覚ホラーなんて言われたが、しかしここまで奇妙な映画になることを野村芳太郎ははなから予測していなかったと思う。

 それぐらいこの映画の若命真裕子には無垢ゆえのリアルな訳のわからない不気味さが出ている。

 これはたぶん「ウルトラQ」の「悪魔っ子」に匹敵するリアルなホラー映画だろう。

 あちらもお話はシンプルなものでしかないのに、悪魔っ子たる少女に訳のわからないリアルに無垢ゆえの不気味な存在感があったからである。

 その上この映画には長閑な家族映画や医療教育映画的な小さな詩情すらあり、それがまたささやかな小さな家族のメロウな幻想譚のような風情も漂わせているし、なんとも不思議にメランコリックな味すらも出している。

 いわゆる秀作とか傑作というのとも違う、これは実に異色の怪作としか言いようのない不思議な魅力の一篇。
2013/10/20(日) 14:20:17 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

「闇の狩人」

 
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 五社英雄「闇の狩人」再見、

 徳川十代将軍家治の時代に、老中田沼意次は幕政をあやつって金権汚職にまみれていた。

 江戸の裏には、金で人を殺す闇の狩人という組織があった。

 この闇の稼業の者たちの間で暗躍的な戦いが巻き起こる。



 五社英雄が「雲霧仁左衛門」の後に撮った池波正太郎原作の松竹時代劇。

 殺し屋集団の中の強者どもが影の世界で戦う話だが、まあ原田芳雄目当てで昔封切り時に見に行ったものだが、原田の活躍もまあまあといったところで、映画自体もイマイチ焦点が定まっていないバラついた感じがしたものだった。

 仲代達矢がいい味を出しているといえばそうだが、それにしては妙に限定的な役どころに甘んじているようにも見え、イマイチ芝居が開花している感じもしない。

 殺し屋時代劇というよりスパイ戦や忍者戦的な感じがするものだが、もうちょっと太い芯の通った出来だったらもっと説得力のあるものになったろうと思える、ちょっと小ぶりな感じがする一篇。


  2013/10/08(火) 13:38:09 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

「GONIN」

 
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佐藤浩市、本木雅弘 他

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 石井隆「GONIN」再見、

 借金まみれのディスコのオーナー佐藤浩市は金に困っていた。

 そこで男相手のコールボーイ・本木雅弘、元刑事で裏社会と通じている根津甚八、リストラされたサラリーマンの竹中直人、パンチドランカーの元ボクサー椎名桔平ら社会からはみ出した5人で暴力団の大金を強奪する計画を立て実行し成功する。

 しかし佐藤らが盗んだことを知った暴力団は、ヒットマンのビートたけしらを雇って報復しようとする。




 

 石井隆のクライムノワール活劇映画。

 この時期はこの手の犯罪映画が流行りだったのもあったが、中々秀逸なキャストで描かれた映画である。

 ちょっと全体的にもうちょっと迫力とテンポのよさや緊迫感があるといいなとは思うが、それでもビートたけしが自分が監督する映画でも見せる非情な相貌をこのヒットマン役でも見せているし、石井隆独特の陰影に富んだ光と影の映像が犯罪映画のテイストを生々しく際立たせている。

 5人の犯罪者が過剰に演技しすぎるほどに空回りしているところがなくはないが(特に竹中直人)、それでもそれゆえに切迫した人間関係は描かれている。

 後半ヤクザに追い詰められギリギリで逃亡する深夜バスで、日本の演歌を不意に聞くシーンに石井隆映画独特の日本人の感覚が出ているが、こういうシーンを見るとジョン・ウーが香港で撮っていた犯罪映画の中の情緒を想起させ、それを石井隆的に独特の日本人感として描出しているところに中々いい味わいが出ている。

 ヒットマンのたけしには迫力があっても暴力団側の描写が弱かったりと色々綻びもある映画だが、それでもこういう映画を日本で実現したいという熱気が強く顕れており、そういう作り手の思い入れが感じられる映画である。

 力みすぎて空回りしているところもあるが、それでも映画自体に独特の熱気がある一篇。


2013/09/03(火) 14:10:06 松竹 トラックバック:0 コメント(-)
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