0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『ロシアン・スナイパー』




セルゲイ・モクリツキー『ロシアン・スナイパー』、

1941年、ナチス・ドイツはソ連に侵攻するが、大学生のリュドミラ・パブリチェンコ=ユリア・ペレシルドは、女性ではあるが天性の射撃の才能があり、それが注目されてスナイパーとなり、戦場に行くことになる。

ユリアはナチス兵を多く狙撃し、ナチスに”死の女”と呼ばれ恐れられる。

だがソ連軍上層部には英雄扱いされるのと同時に、戦意高揚の象徴として利用されるようになっていく。

敵を狙撃する任務を遂行しながらも、ユリアは戦場で恋をするが、しかし戦地で恋人は戦死してしまう。

戦況はその後悪化し、ソ連軍は要塞に追い詰められていき、10カ月間の攻防戦を繰り広げることになる。

ユリアも失意の中奮闘するが。




旧ソ連に実在した女性スナイパー、リュドミラ・パブリチェンコを描いた実録映画。

リュドミラの波瀾万丈な人生を描くと同時に、派手な戦闘場面も中々の迫力で描かれている。

だから実録映画であることを途中つい忘れて、荒唐無稽なまでに天才的な、”死の女”とまでナチスに怖れられる凄腕の女スナイパーの死闘を描いたエンターテイメントな戦争アクション映画にもだんだん見えてくるのだが、しかしリュドミラの過酷な人生や生な息吹、女としての恋情や愛する者を失った哀しみが痛々しいまでにリアルに描かれてもいるので、やはり実録映画としての重みが、まるで重低音のように響いてくる映画になっている。

そういう意味では、映画としての見せ場は派手だが、中々厚みのある作品である。

リュドミラ役のユリア・ペレシルドは哀愁と内なる強さが同居した、まるで”さそり”を演じていた時の梶芽衣子のような個性が役によく合い、恋愛描写もわざとらしい色恋挿話を描いたりせずに、直観的に男女が戦場で結ばれていくダイレクトさには自然さがあり、それが荒々しくも壮絶な戦場における恋愛というものをリアルに体現しているように見える。

ロシア映画なのに、反戦映画的だったり当時の軍部の狡猾さを捉えた描写が随所に明確にあるのには、よく検閲されなかったなとちょっと驚いたし、アメリカ側がリュドミラにかなり理解を示し、元アメリカ大統領夫人のエレノア・ルーズヴェルトとの交友が描かれる場面もあり、と元々こちらが想像していた、ロシア側にとって国家的に都合がいいだけの英雄を描いた映画ではないところは中々いい。

リュドミラはナチスを大量に殺した英雄ということかもしれないが、しかしそこには大量虐殺をやったナチスを、同じく大量に殺した死の女の重苦しさの気配がかなり出ていて、とても英雄の映画には見えないリアルな痛々しさが漂っている。

人間ドラマとしても派手な戦争アクション映画としてもよく出来ている、わりと秀逸な一篇。 2017/09/23(土) 00:06:08 外国映画 トラックバック:0 コメント(-)

追悼 ハリー・ディーン・スタントン




ハリー・ディーン・スタントンさんが亡くなった。

91歳と長生きされたが、実にアメリカ映画的な顔立ちや存在感の名優だった。

やはり主演作『パリ・テキサス』での名演の印象は強く、また世間的にも代表作であろうが、主に脇での活躍が多かった名バイプレイヤーだった。

『断絶』『ストレート・タイム』、『レポマン』『エイリアン』などでも印象深い好演を見せ、デヴィッド・リンチ映画にはその個性や存在感がかなりよく似合い、常連俳優だったが、ある意味ハリー氏の存在感というのはリンチワールドの一角を占める構成要素だったような気がする。

特にアメリカ郊外の田舎町にいる、リアルだが妙に癖のあるアメリカ人役がリンチ映画では特に映えていた気がする。

『ワイルド・アット・ハート』や『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』でも良かったが、珍しく何も起こらない長閑なリンチ映画『ストレイト・ストーリー』でも、アメリカの農村地域にハリー氏が何気なく登場するだけで、妙にアメリカの田舎町の狂気の気配が漂い、長閑な映画に不思議な緊迫感の亀裂が入っていた。

その他、『フール・フォア・ラブ』『スラムダンス』や、近年でも、前にここでレビューを書いた『セブン・サイコパス』他などで好演していた。

アメリカ映画の魅惑を体現していたような名優だった。

ハリー・ディーン・スタントンさん、ご冥福をお祈り致します。





2017/09/19(火) 00:06:59 R・I・P トラックバック:0 コメント(-)

『初体験物語 未果のラブラブ大作戦』




田村孝之『初体験物語 未果のラブラブ大作戦』、

女子大生の未果=愛斗ゆうきは高校時代から知り合いでもないサーファーの江口拓也に遠くから片思いしていた。

憧れの江口一途なため、愛斗は20歳になってもヴァージンだったが、幼なじみの村田宏一郎も童貞だった。

しかし村田を好きになった女性がいて、それは愛斗の友達だった。

愛斗は江口が管理するペンションで、村田が入っているサーフ部の夏合宿を行う事を知り、サーフィン未経験ではあるが憧れの江口にヴァージンを捧げるために無理矢理サーフ部に入部する。

その後サーフ部は合宿に行き、そこで江口と会った愛斗は舞い上がり、村田や他の部員も巻き込んで脱・ヴァージンを果たそうと奮闘する。




女子大生のラブコメ映画。

まあ内容的には絡みのシーン有りの、少女マンガの軽いやつみたいなものである。

江口に憧れていたはずの愛斗が徐々に幼馴染の村田の気持ちに気がつき、本心では愛斗も村田に気があったため、最終的には幼馴染のヴァージンとチェリーボーイがくっ付いてハッピーエンドという、いかにもなテンプレ純愛ラブコメである。

しかしサーフ部の他の脇役カップルの恋愛の経緯も同時に描き、江口とメロメロになっている愛斗の恋愛展開も描かれる。

江口拓也は同名の人気声優とは別人だと思うが、いかにもモテモテそうなイケメンプロサーファーのリアリティー満点なので、王子様役に中々合っている。

江口は前半は爽やかイケメンサーファー風で、後半徐々に裏の顔が発覚してきな臭くなっていくのだが、悪人の素顔が暴かれた時「(プロサーファーという)好きなことで生きていくっていうのは大変なんだよ」と漏らし、そこにちょっと青春の挫折や影が感じられ、結局悪役なのに中々印象深い存在感である。

テンプレドラマではあるが、それぞれの人物の気持ちを脇の脇までわりとちゃんと描いているし、悪役の描き方もよく、そんな中での愛斗と村田のテンプレ純愛話なので、そう安いドラマという感じもしない。

まあ大した作品ではないが、それでもそれなりに見てはいられる一篇。 2017/09/16(土) 03:43:04 Vシネマ トラックバック:0 コメント(-)

『ドラゴン・コップス 微笑捜査線』




ワン・ジーミン『ドラゴン・コップス 微笑捜査線』、

ある時、人気スターのケビン・チェンがスカイダイビング中に事故死するが、それから香港のセレブたちが続々と微笑みを浮かべたまま亡くなるという事件が巻き起こる。

香港警察のベテラン刑事のジェット・リーと新米刑事のウェン・ジャンが捜査するが、彼らはトラブルメーカーで、女上司のミシェル・チェンは頭を抱えていた。

だが、殺されたセレブたちと付き合っていた美人女優リウ・シーシーが容疑者として上がる。

そして彼女には、いつも恋人を奪ってしまう怪しくもセクシーな姉のリウ・イエンがいて、彼女も容疑者と目されていくが。







ジェット・リーが主演のポリスアクション喜劇映画。

しかしジェット・リーは主演のわりに大して出てこない上に、まだ50代前半だろうに、定年間近の老けた刑事役で何ともパッとしない。

確かに階段を使った立体的な構図のワイヤーアクションは中々決まっているが、リーは脇役っぽく、ほとんど主役は相棒のウェン・ジャンに見える。

中国で大ヒットしたらしいが、ワイヤーアクションのカンフー場面もそれほど大したものじゃないし、ブルース・リャンが出ているのは嬉しいが、なんとなくワイヤーアクションの場面を挿入する構成自体がよくない気がして、よくこれで大ヒットしたなと思う。

一応警察の捜査を描いたミステリ展開とワイヤーアクションを絡ませているわけだが、結局どちらも中途半端で、おまけに肝心のジェット・リーが老け役で脇役的なまでに大して出てこないとあっては、何とも中心を欠いた隙のある映画に見えてしまう。

最後に真犯人が発覚し、アクション対決となるが、このクライマックスもイマイチ盛り上がりに欠ける。

一応、ジェット・リーとウェン・ジャンとミシェル・チェンによるコミカルな掛け合いはそれなりにコテコテの香港喜劇映画らしくなってはいるし、お約束のエンドロールのNG集はまあ楽しいが、やはり全体的には、そうつまらなくはないもののイマイチヌルい出来である。

脇で扇情的な悪女っぽい個性を出しているリウ・イエンは中々目立っているが、やはり主役のジェット・リーが脇役っぽいことや、全体の中途半端感が、映画をこじんまりさせているように思う一篇。 2017/09/12(火) 00:03:04 外国映画 トラックバック:0 コメント(-)

追悼 土屋嘉男




土屋嘉男氏が今年2月に亡くなられていたらしい。

役者になる前は井伏鱒二の釣り仲間で、井伏の弟子の太宰治ともその縁で知り合い、太宰の勧めで俳優になられたという、なんともすごい経歴の方だった。

やはり『七人の侍』他の黒澤明映画での好演の印象が強いが、それと東宝特撮映画での好演もやはり忘れ難い。

前にここでレビューを書いた秀作『透明人間』や、『ガス人間第1号』『マタンゴ』、『ゴジラ』シリーズ他の東宝怪獣映画などを観て、子供ながらに「東宝特撮の顔」とすら昔思ったものだった。

だが、鈴木英夫監督作にも刑事役他などでよく出演されており、丹波哲郎デビュー作の新東宝犯罪映画『殺人容疑者』や、秀逸なサスペンススリラー『彼奴を逃すな』や大傑作『脱獄囚』、前にここでレビューを書いた『社長無頼 怒号篇』や、山崎努主演のピカレスクノワール『悪の階段』などなどの傑作映画での好演も良かった。

TVでは『大激闘 マッドポリス80』の、第1話で殉職する初代キャップ役他などを演じられていたのも忘れ難い。

また、成瀬巳喜男の傑作『ひき逃げ』や『乱れ雲』『妻の心』、白川由美主演の女探偵映画『女探偵物語 SOS』や、石井輝男脚本の佳作サスペンス『黒い画集 ある遭難』、

これも前にここでレビューを書いている『おしゃべり奥様』(中村メイコの旦那役)とエド・マクベイン原作の『恐怖の時間』、

その他、主演作『奴が殺人者だ』や、『100発100中 黄金の眼』、岡本喜八の『斬る』や『日本のいちばん長い日』、『国際秘密警察 絶対絶命』、ATG映画『西陣心中』や、ピーターと同性愛シーンを演じた『薔薇の葬列』、諸星大二郎原作の佳作『奇談』他などでの好演も印象深かった。

温厚な紳士的個性と、人間臭い個性が同居していて、それが硬派な正義漢役やワイルドな役などにピッタリだったり、場合によっては、それが狂気に至る役どころとなる場合もあったが、いずれにしても、どこか品格のある名優さんだった。

土屋嘉男さん、ご冥福をお祈り致します。










2017/09/09(土) 00:06:43 R・I・P トラックバック:0 コメント(-)
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